プロフィール

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名古屋生まれの名古屋育ち。絵との付き合いは、油絵を始めた高校時代。仙台にいた頃は友人と木版画に熱中。社会人になって遠ざかったものの、退職を期に再スタート。水彩、油絵と、もと来た道を楽しみながら続けています。

2008-07-06

旅の終わりに (2)


滞在中は日帰りの旅行を何回か楽しんだ。遠足のような気分なのだが、少し違うのはパスポート持参の遠足なのだ。地図の上では、バーゼルは確かに市の西と北西にフランス、北東にドイツと接している。車だと30分もしないうちに国境の検問所を通過することになり、係官の指示に従わねばならない(スイスはEUに加盟していない)。これは私も含め大抵の日本人には非日常の出来事なのだが、その期待に反して、一度も止められることもパスポートを調べられたりすることもない。いつも何事も起こらずに終わってしまうこの儀式に少し不満でもあるのだが。

矢張りこの儀式を経て、先日はアルザス(フランス)のコルマール(Colmar)の町を訪れた。家から約1時間のドライブだ。小さな町だが、町中に入ると中世からルネサンスのころの建物が残っていて、何百年もタイムスリップしたような気分になる。前大戦で破壊されたドイツの都市とは対照的に戦禍を免れたということだが、歴史的な建物や町並みを残すという市民の努力も延々と続いているようだ。それが奏効し、いまでは、フランスとドイツの狭間で栄えた商都の、歴史テーマパークのような姿に変わっている。訪れる観光客も多い。歴史遺産をベースに町興し(意図はなかったかもしれないが)を達成したようにも見えた。

町中を流れる水路も観光名所になっていて、大げさながら「プチ・ヴェニス」などとパンフレットに紹介されていた。はじめ気乗りしなかったものの、車のバッテリを動力源にして動く小船に乗ってみると、花に飾られた古い町並みの眺めが緩やかに変わり、趣があって格別だった。スイス滞在中最後の、思い出深い遠足になった。

2008-07-05

旅の終わりに


先日のワインのテイスティングでは、アルコールに強くもないのに、気分にまかせ10種類ものワインを残さず全部飲んだせいで、顔がカッカするほど酔ってしまった。こうなったら味も香りもあったものではない。帰り道は、運転してくれたMさんには申し訳なかったが、助手席でいい気持ちになって寝てしまった。

そのブルゴーニュを訪れたのは3週間も前の事になってしまった。長いと思っていたスイス滞在もいよいよ終わり、明日こちらを発って日本に戻る。今週前半まで30度前後の晴天が続いていたが、昨日の雷雨を境に爽やかな空気に入れかわった。晴れ、昼下がりの気温は20℃、高原にいるような気分だ。

滞在中は、8ヶ月ぶりに見る孫と一緒に過ごせた。まだ2歳だというのに、語りかけた言葉に、機を得たような日本語の返事を返すのには驚かされた。砂が水を吸い取るように新しい言葉をどんどん吸収している。成長の眩しさのようなものを感じる。毎日、子育てに忙しい両親の大変さがあってこそなのだが、こういう時間が持てたことに感謝したい。


2008-06-26

オープンな個性

ウィーン市内の見学に疲れ、今日はバッハウ渓谷のドナウ川を下る遊覧を のんびりと楽しんできた。暑さにはまいったが、天気予報を見ながら晴天の日を選んだのだから仕方がない。疲れると夕飯のレストランを探すのが億劫だ。ふと思い出したのが 到着した日に見つけておいた、ホテルから路地を抜けると1、2分で行ける、面白い名前のレストラン。よし、今日はあそこだ。

レストランの名前は「Witwe Bolte」、辞書でチェックすると どうも「やもめのボルテ」ということらしい。裏庭のオープンテラスがいい。真ん中にある大きな菩提樹がテーブルを涼しそうに覆う。ときどき風に乗って微かに甘い花の香りが下りてくる。7時前で数組のお客がいるだけだ。そのうちの、シニアに入ったばかりの年恰好の一組は、テーブルの同じ側に座って、静かに何か喋りながら仲良く同じメニューに見入っていた。二人座りのベンチでブランコになっているのがあるが(ブランコベンチ or スウィングベンチ?)、まさにそれに座って語り合っているような雰囲気だ。


少し離れた別の席には、同じ年恰好の二人が向かい合って座っていた。ビールが置いてあるのすでにオーダーは終わったのだろう。近くのアパートからふらっと食事に下りて来た格好で、男性のほうはテーブルの上に広げた新聞を丹念に読んでいる。女性は何かの書き物に集中している風だ。ときたま思い出したように顔を上げ、同時にビールを飲んだりするところは面白い。

運ばれてきたビールで喉の渇きを癒しながら、この二組の夫婦(?)の姿から垣間見れた個性について思いを巡らせてみた。



 

2008-06-25

ブルゴーニュのテイスト


ユーロカップの喧騒から離れ、ブルゴーニュへ。今日は中心都市ディジョンから国道74号線を南下。「コート・ドール(黄金の丘)」に広がるブドウ畑の黄緑色と空の青さが目にしみる。ここのブドウの木は幹が太い割りに丈が低い。まばらに人が畑に入って作業をしている。芽を摘んでいるのだろうか。畑の奥、丘をすこし上がった辺りに村が点在し、教会の尖塔や館も目に入ってくる。空と大地が広い。

すこし前に訪れたことがあってフランス語も話せるMさん、地元の人のように国道から続く村への道を選び、ワイン・テイスティング(試飲)ができるというワイナリーに案内してくれた。ひなびた集落の外れにあったワイナリー、シャトー・ジュヴレイ・シャンベルタン。古い素朴な石造りの館と、石積みの塀の内側に今を盛りに咲き誇るバラの茂みが好対照だった。アーチの門にぶら下がっているベルを鳴らしてみてはじめて、今日は休みなのがわかった。今の季節は、日曜だけ開いているようだ。残念。期待していた”地ワイン”は味わえなかったけれど、ワイナリーや辺りの家並み(スケッチ)が醸し出す雰囲気に飲み込まれそう。

そのあと寄ったボーヌの町で念願のテイスティングが実現した。さながら迷路のように延びたワインの地下貯蔵庫。目が薄暗がりに慣れてくると、両側に垂直に詰まれたワインのビンが美しい。到着した小部屋で待っていたソムリエからブルゴーニュの地質やワインの特徴を聴いたあと、最初のテイスティング。岩を刳り貫いただけの薄暗い小部屋の雰囲気は、不思議に味覚神経を敏感にす気がする。地下倉庫の何ヶ所かでテイスティングするうち、いいかげん酔ってしまった。最後の注文では、気に入った銘柄の2本だけにした。

2008-06-01

土と緑の香り



今月は雨が多かったように感じる。朝、雨戸を開け、流れ込む外気を吸い込むと、湿気を帯びた土と緑の香りがする。庭の一部を和風に変えるDIYが7割ほど出来たが、マッチ箱のような小さな庭でも、土や植物が朝の清々しい空気を作ってくれるのは嬉しい。

和風の庭といっても、それまでの芝生を剥ぎ取り、敷き石で輪郭を作った内側に草木を植えただけだ。そこに水草とメダカが泳ぐ小さな池が欲しいのだが、スペースと折り合いをつけるため別な方法を考えなくてはいけない。残り3割といってもいつ完成するのか全く見当がつかない。でも、それまでの工程を楽しめればと思う。

そんななか、1年半ぶりにスイスを回る旅行を計画している。前の時は冬だったが、緑を残した牧草地が広がっているのを見て、暖かいはずの日本の風景のほうが冬らしいと感じたことがあった。今度は初夏、どんな風景に変わっているのだろうか。1年半前を思い出しながら想像している。

2008-04-19

失敗の賜物


今年初めての山歩きは西丹沢になった。5時半起きだったが、待っていた初歩きだし、気持ち良く晴れた空のせいで、すっきりした目覚めになった。松田町ではヤマブキだろうか、道路わきの崖に鮮やかな黄色い花が、北山町に入ると桜、終点の自然教室の辺りではブナの若葉が見えた。バスに揺られる一時間ほどのあいだ、自然が演出する春の行進曲を聴くようだった。

荒れていた沢で道を間違え 1時間余りロスするハップニング。そんなこともあって予定した全行程は歩けなかったが、そのぶん時間的に余裕が持てた。芽吹きを前に赤みを帯びたブナ林、明るい沢を縫って流れる澄んだ水、時々吹き抜ける乾いた風、檜洞丸に続く尾根下に僅かに残る白い雪筋、突然耳元で甲高く鳴くウグイスに驚かされるなど、いつもより味わい深い山歩きになった。
 

2008-04-07

二番亭

冬の鋭い寒さにくらべるとこの頃の朝はどことなくホンワリと冷たい。遠くに見える山並みが浅葱色に霞んで見えるのは好きだ。桜はもう散り足を急いでいるのに、近くで桜祭りが開かれるらしい。すでに桜花を十分堪能していることもあり気をそそられない。やはり桜は咲き始めがいい。

空は雲ひとつない青空で家にいるのは惜しい気がして、セカンドハンドの店を覗きがてら散歩に出かけることにした。どこからともなく菜の花の香が匂ってくるようだ。店は、家内が見つけておいたクラシックな家具を見るのが目的で、丹念に寸法を測ったりしていたら1時になってしまった。

ノンビリと歩くといつもよりお腹が空くみたいだ。近くにファミレスやファーストフードの店があったが敬遠し、何かあるだろうと思いながら少し先まで歩いて行くと「二番亭」と書かれた蕎麦屋さんが目に入った。食べ物屋ならふつう一番亭としそうなのに面白いなあと思いながら入ってみる。


テーブルが右側で、左側の厨房に向って一列カウンターがある。テレビは玄関の頭上だ。昔、こういう店に入ったなあと キョロキョロ見渡していると、次第に居心地が良くなってくる。湯気が上がる厨房がよく見える。そこから注文を取りに来た女性の白衣姿も清々しい。作りたてで ボリュームがあり、美味しくて安い昼食に大満足でした。


セカンドハンドの店で見て 気に入った家具といい、蕎麦屋の懐かしい雰囲気や味も、やはり「一番」というより「二番」の響きの方がよくマッチするようです。わたしもそれが好きなのに気づきました。
  

2008-01-31

遠くなった山


もう1月は下旬に入りましたが、年が明けた1月に見る富士山は、ほかの月に見るのとは少し違って見えます。山は同じですから見る私の側で何かが変わるせいでしょう。それは長年、というか子供の頃から自然に気持ちの中に育まれてきたある種の感情なんだろうと思います。熱海まで行った帰り、湯河原から箱根に上がり、3合目ぐらいまで雪に覆われた富士を間近に眺めてきました。なんとなく、新年になったことを納得したような気分でした。

天気が良ければわが家からも富士山の頭が見えますが、増えたケーブルTVや光ファイバー用の電線の陰になってしまって、今ではそのぶん少し遠い山になったように見えます。

2008-01-16

スイスの田舎から


もう1年ほど前に旅したスイス、ウンター・エンガディン地方の光景です。これを年賀状のデザインにしようときめ、スケッチブックをスキャンし、はがきに印刷できるようサイズを整えました。続いてパソコン上の編集ソフトでカットやメッセージを入れて、あとは印刷です。こういう便利な道具があると大助かりです。

つい10数年ぐらい前までは、木版画で作っていましたが、工程が多かったり版木を彫ったりと、ほとんど力仕事でした。疲れて、残さなくてはいけない線を削り取ってしまったこともあったかな。刷り具合にもバラツキがあって、上手く刷れたのは、絵にうるさい○○さんにしようと、分けたのを思い出します。

いまはパソコンのお陰で一昔前の重労働を懐かしく思いだせるようになったりました。ただ元日配達に間に合わせようと急く気持ちは今も昔も変わりません。