10年ほど前から春の楽しみが一つふえた。年齢のせいかもしれないが 山菜がこんなに美味しかったのかと気が付いたのだ。それから毎年春になると山菜目当てに北国に住むHさんを尋ねている。
山菜の種類によって採取する場所はだいたい決まっているが、最適な時期となると年によって変わるので 当たりはずれがでてしまう。山に詳しいHさんでも現地に行って見なければ分からない。それが今年はよく分かった。
只見川が流れるその町の積雪がゼロになったのは4月の半ば。二週間後の29日、いつもの場所に向かった。国道をはずれ 木立の中を登ると道の両脇にはまだ1メートルほどの残雪があった。たぶん林道は歩きだろうと覚悟を決めていたが 幸い除雪されていて 近くまで車で入れた。
コゴミが豊富に採れることから ”コゴミ畑” と勝手に呼んでいるその場所は杉林に囲まれているが、町を見下ろすコゴミ畑の急斜面だけが、救われたように手付かずで残っている。山葡萄の蔓が絡まった潅木をくぐって斜面に下りると視界が開ける。遠くには白く輝く御神楽岳と連なる峰々、眼下には只見川の深い水と谷間の町、この変わらない風景を目にすると心が安らぐ。
今年のコゴミ畑にはまだ多くの雪が残っていて、春の到来を遅らせていた。斜面に残る雪のあちこちに、先客の野うさぎが来た痕跡を見つけた。数十年ぶりの豪雪と戦い、枝をもぎ取られてしまった大木が、遅い春の日差しを受けて立っていた。足元を見ると出たばかりのコゴミがいくつか頭をもたげていた。