プロフィール

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名古屋生まれの名古屋育ち。絵との付き合いは、油絵を始めた高校時代。仙台にいた頃は友人と木版画に熱中。社会人になって遠ざかったものの、退職を期に再スタート。水彩、油絵と、もと来た道を楽しみながら続けています。

2005-11-02

シシ茸採り

10月の終わり、少し遅いと感じながらシシ茸探しに山に入る。二日続いたぐずついた空模様で、そろそろ身体を動かしたくなっていた。

シシ茸は香茸(コウタケ)のことだそうで、この地方ではそう呼ばれている。シイ茸より大きく色は濃い、カサの中心が根元まで窪み中空になっていて、表面には黒っぽい毛がある。外見は、『香茸』とよぶより『シシ茸』のほうが形をよく表している。初めて見たときは、身の毛がよだつというか、到底 食べる気はしなかった。しかし、その強烈で独特な香りは、なかなかの上味で、やはり『香茸』と呼ぶのがふさわしいと思うようになった。
  

国道から下り 少し行くと 錆びた鉄鎖の車止めがあった。3、40年ほど前まで 国道として使われていた道だと 案内してくれた Hさんが説明してくれた。今はひっそり静まり返った国道跡を歩く。ウルシが美しく紅葉していたが、周りの木々はまだ青い。途中、Hさんがスズメバチの巣だと言って 15メートルほどの木の中ほどを指差した。淡い縞模様で 一抱えもある大きな塊がぶら下がっている。幸いスズメバチの歓迎は受けなくて済んだが、自然と首が竦み 急ぎ足になる。半時間ほど歩き獣道に分け入る。二人で歩くとよほど気が落ち着くが、前を歩く Hさんが見えなくなると 腰からぶら下げた熊よけ鈴を わざと鳴らしたくなる。覆いかぶさる草や枝を払いながら さらに15分進む。何年か前 シシ茸が篭いっぱいに採れたという秘密の場所はそこにあった。雑木林の中は昨日までの雨でまだヒンヤリ湿っていて ときおりキノコの匂いが漂ってくる。注意深く木の根元を調べる。シシ茸は見つからない。枝を跨ぎ、傾斜を踏ん張りながら探すこと一時間ばかり、西に傾き始めた陽が うす雲に明るく映っているのを見たとき 疲れがスーッと消えるのを感じた。